※2021年9月6日更新
吉本興業の宮迫博之さんが、反社会的勢力である振り込め詐欺グループのパーティに闇営業として参加していたことで活動休止に追い込まれました。宮迫さんを責める声が多い中「そもそもどうやって反社(反社会的勢力)って見分けるの?」「反社と分かっても断れないよね」といった擁護の声もありました。
一般の方は、反社対応と言われても意味が分からない方も多いと思いますし、そもそもこのニュースを見て、はじめて反社という言葉を知った方も多いと思います。
そこでこの記事では、上場企業の総務部門で反社対応・反社チェックをやってきた経験やノウハウを公開し、反社チェックの具体的なやり方と流れを解説します。
目次
この記事の概要
この記事は下記の内容を解説しています。詳しい内容については各項目をお読みください。
- 反社会的勢力とは、暴力団など暴力・脅迫・恐喝・詐欺などで不正に利益を得ようとする個人や組織です。
- 反社会的勢力を排除する目的は、反社と取引することで間接的に利益供与することになってしまったり、反社が不当に得た利益を受け取ることになってしまうからです。条例違反の可能性や社会的な信用面からもデメリットがあります。
- 反社会的勢力を排除する方法として、①反社会的勢力排除宣言②反社会的勢力でないこと等に関する表明・確約書③契約書の反社会的勢力排除条項④反社チェックの4つがあります。
- 反社チェックとは、反社会的勢力と取引する前に、相手が反社かどうかを調べることです。
- 反社チェックは、日経テレコンなどで関連キーワードとともに個人や企業名を新聞など記事検索する方法と、グーグルで関連キーワードとともにネット上の風評検索する方法を組み合わせるのが一般的なやり方です。
反社会的勢力とは何か?
反社会的勢力とは、一般的には以下のように定義されています。
- 暴力団、暴力団構成員、暴力団準構成員
- 暴力団関係企業(いわゆるフロント企業など)および役員・従業員
- 総会屋等(企業から株主配当以外の不当な利益を要求する団体及び個人)
- 社会運動等標ぼうゴロ(社会運動を仮装または標榜し不正な利益を求めて暴力的不法行為等を行うもの)
- 特殊知能暴力集団(暴力団との関係を背景にその威力を用い不正な利益を求めて暴力的不法行為等を行うもの)
- 上記について、支配・関与、利用、社会的に非難されるべき関係にあるもの
一般の方にとっては、暴力団以外は具体的なイメージが難しいかもしれませんが、「暴力・脅迫・恐喝・詐欺などで不正に利益を得ようとする人や組織」と理解しておくといいでしょう。
なぜ反社会的勢力を排除しなければならないのか
現在では、社会全体として反社会的勢力を排除する方向で進んでいます。なぜ、反社会的勢力を排除(排除とは、具体的には取引をしないこと)しなければならないのでしょうか?
まず、個人や企業が反社会的勢力と取引をすることで、間接的に暴力団などの反社に資金や利益供与することになります。そのため、そんなつもりでなくても、取引することで反社会的勢力を支援することになってしまうからなのです。
また、反社会的勢力が不当な方法で得た資金を、間接的に受け取ることになってしまうという面もあります。
法律面では、法務省が『企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針』を定めており、指針に基づき各都道府県が定めている「暴力団排除条例」に抵触し条例違反になることもありますし、監督官庁からの命令や指導を受ける可能性もあります。
また、そもそも「反社会的」な存在なので、脅迫や恐喝など不当な要求を受ける事も考えられますし、「あそこは暴力団とつきあっているらしいよ」などと噂になると信用面でもデメリットがあります。
これらの理由により、反社会的勢力を排除する必要があるのです。
反社会的勢力を排除する方法
では具体的にどのような方法で、反社会的勢力を排除するのでしょうか。それには、大きく4つの方法があります。
HP等に反社会的勢力排除宣言を掲載する
1つは、個人や会社として反社会的勢力を排除することを宣言し、HP等にその方針を「反社会的勢力排除宣言」として掲載する方法です。
こうすることで、社内外に「自社は反社会的勢力を排除する」ということを周知して、反社会的勢力を近づかせないようにするとともに、万一、反社会的勢力と関係してしまった時に、関係を断つ理由づけとすることができます。
反社会的勢力排除宣言は、一般的には、以下のような内容となっています。
反社会的勢力排除宣言
株式会社○○○○は、企業としての社会的責任、コンプライアンスおよび企業防衛の観点から、ここに、反社会的勢力を排除することを宣言します。
1.反社会的勢力の排除に関する姿勢
当社は、暴力団、暴力団構成員、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標ぼうゴロ、特殊知能暴力集団等の反社会的勢力(以下、「反社会的勢力」という)と、一切の関係を遮断します。
2.反社会的勢力との関係遮断
当社は、反社会的勢力との関係を一切遮断するために、代表取締役以下、組織全体として断固たる姿勢で一切の取引を遮断します。
3.不当要求の拒絶および法的対応
当社は、反社会的勢力からの不当要求は断固拒絶し、民事と刑事の両面から法的措置を講じます。
4.労働契約・雇用契約の禁止
当社は、反社会的勢力による被害を防止するために、反社会的勢力との雇用契約その他一切の労働契約を締結しません。
5.反社会的勢力排除条項の規定
当社は、反社会的勢力が取引先となって不当要求を行う場合の被害を防止するため、当社が締結する契約書等に反社会的勢力排除条項を規定するとともに、契約締結後に契約の相手方が反社会的勢力であると判明した場合は契約を解消します。
6.外部専門機関との連携
当社は、警察、暴力団追放運動推進センター、弁護士等の外部専門機関と連携して、反社会的勢力の排除に取り組みます。
○○○○年○月○日
株式会社○○○○ 代表取締役△△△△
また、上場企業を含むほとんどすべての大企業が、こうした反社会的勢力排除宣言をHPに掲載しています。
- 『反社会的勢力に対する基本方針について』トヨタ自動車
- 『反社会的勢力に対する基本方針』三菱UFJ銀行
- 『反社会的勢力排除に向けた指針』フジテレビ(社団法人日本民間放送連盟)
取引前に「反社会的勢力ではないこと等に関する表明・確約書」を差し入れてもらう
2つめが、取引をする相手側に「反社会的勢力ではないこと等に関する表明・確約書」を差し入れてもらう方法です。
「反社会的勢力ではないこと等に関する表明・確約書」とは、取引しようとする相手から、「自分が反社会的勢力でないこと」「反社会的勢力と関係がないこと」「反社会的行為をしないこと」などを表明・確約する文書です。
取引や契約の相手先が反社会的勢力かどうかを確認することは、実務上はなかなか難しいのと、一度取引や契約を始めてしまってから、相手先が反社会的勢力と気づいても取引を中止したり契約を解除したりできない事があります。そのため、取引や契約前にこうした文書を差し入れることで、相手先が反社会的勢力でないことを確認するとともに、取引や契約後に判明した場合には相手先の虚偽記載を理由に、取引中止や契約解除、民事や刑事訴訟などが可能になります。
「反社会的勢力ではないこと等に関する表明・確約書」は、一般的には、以下のような内容となっています。
●●●●株式会社
代表取締役△△△△殿
反社会的勢力ではないこと等に関する表明・確約書
○○株式会社 代表取締役
住所・・・・・・・・・・
氏名・・・・・・・・・・
1.私(当社)は、現在および将来にわたって、次の各号の反社会的勢力のいずれにも該当しないことを表明・確約いたします。
- 暴力団
- 暴力団構成員
- 暴力団準構成員
- 暴力団関係企業および役員・従業員
- 総会屋等
- 社会運動等標ぼうゴロ
- 特殊知能暴力集団
- その他前各号に準ずる者
2.私(当社)は、現在および将来にわたって、前項の反社会的勢力又は反社会的勢力と密接な交友関係にある者(以下、「反社会的勢力等」という。)と次の各号のいずれかに該当する関係がないことを表明、確約いたします。
- 反社会的勢力等によってその経営を支配される関係
- 反社会的勢力等がその経営に実質的に関与している関係
- 自己、自社若しくは第三者の不正の利益を図り、又は第三者に損害を加えるなど反社会的勢力を利用している関係
- 反社会的勢力等に対して資金等を提供し、又は便宜を供与するなどの関係
- その他役員等又は経営に実質的に関与している者が、反社会的勢力等との社会的に非難されるべき関係
3.私(当社)は、現在および将来にわたって、次の各号のいずれの行為も行わないことを表明、確約いたします。
- 暴力的な要求行為
- 法的な責任を超えた不当な要求行為
- 取引に関して脅迫的な言動をし、または暴力を用いる行為
- 風説を流布し、偽計又は威力を用いて貴社の信用を毀損し、又は貴社の業務を妨害する行為
- その他前各号に準ずる行為
4.私(当社)は、これら各項のいずれかに反したと認められることが判明した場合及び、この表明・確約が虚偽の申告であることが判明した場合は、催告なしでこの取引が停止され、又は解約されても一切の異議を申し立てず、また賠償ないし補償を求めないとともに、これにより損害が生じた場合は、一切私(当社)の責任とすることを表明、確約いたします。
○○○○年○月○日
署名・・・・・・印
契約書に反社会的勢力排除条項を設ける
3つめが、契約書に反社会的勢力排除条項(暴力団排除条項)を設ける方法です。
これは、契約書の中に、契約の相手先が暴力団関係者などの反社会的勢力だと分かった場合に、その契約を催告なしで解除できるようにした規定のことです。都道府県によっては、条例で反社会的勢力排除条項を契約に盛り込むことが義務付けられているところもあります。
「反社会的勢力ではないこと等に関する表明・確約書」の差し入れと似ていますが、「反社会的勢力ではないこと等に関する表明・確約書」は取引や契約前の確認に比重が置かれているのに対し、反社会的勢力排除条項については取引や契約後の停止や解除に比重が置かれています。
反社会的勢力排除条項は、一般的には、以下のような内容となっています。
第●条 反社会的勢力の排除
1 甲は、乙が以下の各号に該当するもの(以下、「反社会的勢力等」という。)であることが判明した場合には、何らの催告を要せず、本契約を解除することができる。
- 暴力団
- 暴力団構成員
- 暴力団準構成員
- 暴力団関係企業および役員・従業員
- 総会屋等
- 社会運動等標ぼうゴロ
- 特殊知能暴力集団
- その他前各号に準ずる者
2 甲は、乙が反社会的勢力等と以下の各号に該当する関係を有することが判明した場合には、何らの催告を要せず、本契約を解除することができる。
- 反社会的勢力等によってその経営を支配される関係
- 反社会的勢力等がその経営に実質的に関与している関係
- 自己、自社若しくは第三者の不正の利益を図り、又は第三者に損害を加えるなど反社会的勢力を利用している関係
- 反社会的勢力等に対して資金等を提供し、又は便宜を供与するなどの関係
- その他役員等又は経営に実質的に関与している者が、反社会的勢力等との社会的に非難されるべき関係
3 甲は、乙が自ら又は第三者を料して以下の各号に該当する行為をした場合には、何らの催告を要せず、本契約を解除することができる。
- 暴力的な要求行為
- 法的な責任を超えた不当な要求行為
- 取引に関して脅迫的な言動をし、または暴力を用いる行為
- 風説を流布し、偽計又は威力を用いて貴社の信用を毀損し、又は貴社の業務を妨害する行為
- その他前各号に準ずる行為
4 甲が,本条各項の規定により,本件契約を解除した場合には,甲はこれによる乙の損害を賠償する責を負わない。
5 甲が,本条各項の規定により,本件契約を解除した場合には、甲から乙に対する損害賠償請求を妨げない。
反社チェックを行う
4つめが、取引や契約前に反社チェックを行う方法です。
これまで解説してきたように、社会全体として反社会的勢力と取引や契約する事は許されなくなりました。反社チェックとは、反社会的勢力と取引や契約しないために、相手先が、過去および現在に暴力団などの反社会的勢力または反社会的勢力に所属していないかどうかや、詐欺や恐喝などの犯罪で逮捕されていないかどうかを、新聞や雑誌、ネットニュースの記事を照会して調べることです。
実際には膨大なデータベースをひとつひとつ照会するのは難しいため、インターネットを活用して行うのが一般的な方法です。
どんな企業が反社チェックをしているのか
現状では、中小企業や零細企業では、ほとんど反社チェックを行っていないと思います。反社チェックには手間とコストがかかる上、反社チェックをして得られるメリットがほとんどないからです。
そのため、実際に反社チェックが必要になるのは、上場企業や上場を目指す企業、大企業(特に反社会的勢力とのつながりが明らかになった場合に、社会から非難されるダメージの大きい有名企業)になります。
特に、上場企業や上場を目指す企業にとっては、投資家・証券会社・取引所・金融庁などの監督官庁から、反社会的勢力の排除を厳しく求められるため、反社チェックは必須の業務となっています。
ただし社会全体として反社会的勢力の排除が叫ばれるなかでは、中小企業や零細企業にとっても、反社チェックは他人事ではいられません。そのため、コストのかからない後述の「グーグルを使った風評検索」ぐらいは行っておくべきでしょう。
誰に対して反社チェックを行うべきか
もうひとつ重要なポイントとして、誰に対して反社チェックを行うべきかという点があります。
この記事では、取引や契約の相手先という取引相手を想定して解説してきましたが、実はそれだけでは足りないのです。たとえば、役員や従業員、株主などからも反社会的勢力を排除する必要があります。
上場企業や上場を目指す企業は、一般的には、反社チェックを行うべき対象や時期は下の表のようになっています。
調査対象 | 調査時期 | 備考 |
顧客 | 新規取引時・継続の場合は年に1回 | 一般消費者向けビジネスの場合は、通常行わない |
取引先 | 新規取引時・継続の場合は年に1回 | 代表者個人および組織 |
外部協力者(税理士など) | 新規取引時・継続の場合は年に1回 | 代表者個人および組織 |
役員 | 就任前 | 本人および配偶者+二親等以内の親族、これらが所有・経営する企業の代表者個人および組織 |
従業員 | 採用前 | 本人 |
株主 | 株主になる前 | 個人は本人、企業は代表者個人と組織 |
上場企業や上場を目指す企業では「反市チェック」も行っている
上場企業や上場を目指す企業では、反社会的勢力を排除するための「反社チェック」が必須の業務であると解説してきました。実はこうした企業では、反社会的勢力だけではなく、「反市場的勢力(はんしじょうてきせいりょく)」も排除する必要があります。
反市場的勢力とは、金融市場を悪用して不当に利益を上げようとする個人や組織のことで、具体的には、風説の流布・株価操縦・株価操作・インサイダー取引などを行う投資家、仕手筋、箱企業などを指します。
反社チェックの具体的なやり方と流れ
それでは、反社チェックの具体的なやり方と流れについて解説します。
反社チェックツールを使って記事検索する
まず、一般的な反社チェックは、日経テレコンやSP RISK SEARCHなどの反社チェックツールを使い、対象となる個人名や企業名を、反社会的勢力に関連するキーワードとともに新聞や雑誌、ネットニュースなどの記事データベースと照会し、該当する記事を確認することで行います。
例えば、過去に恐喝で事件を起こし逮捕されていれば、新聞や雑誌、ネットニュースの記事に掲載されているので、「恐喝 ●●●●(個人名)」で記事検索することで、調査対象者が反社会的勢力かどうかを調査するという方法なのです。
反社会的勢力に関連するキーワードとしては、以下のようなものがあります。
この方法の注意点として、同姓同名の方が検索でヒットしてしまうことがよくあるということです。その場合は、生年月日や住所などから、本人かどうかを判断します。
グーグルを使って風評検索をする
次に、グーグルを使って風評検索を行います。
これは、グーグルの「検索オプション機能」を使って、対象となる個人名や企業名を、反社会的勢力に関連するキーワードとともに、インターネットで検索する方法です。キーワードは、前述の反社チェックツールで使ったものと同じか、一部を抜粋して行います。
Google chromeでの具体的な使い方を解説します。
Google検索オプションを開く
Googleを開き、右下の「設定」をクリックします。
「設定」から「検索オプション」を選択します。
キーワードとともに検索
「語順も含め完全一致」に対象の人名または社名を入力し、「いずれかのキーワードを含む」にさきほど反社チェックツールで解説したキーワードを入力します。
入力したら、「詳細検索」をクリックして検索します。
このGoogle風評チェックと反社チェックツールとの違いは、新聞や雑誌、ネットニュースなどのある程度信頼性のある情報源以外の情報(風評)を確認できるということです。反面、本当に正しい情報かどうかはわからないというデメリットもあります。そのため、この方法は、あくまでその個人や企業にどんな風説や評判があるかを参考程度に確認する方法になります。
なお、この反社チェックツールを使った記事検索とグーグルを使った風評検索までが、一般的に上場企業などで行われている反社チェックの方法です。
弁護士から警察に照会する
他の方法として、弁護士から警察に照会するという方法もあります。
「警察に対する暴力団情報等の照会について」『弁護士照会制度』東京弁護士会
これは、弁護士から警察に、該当の個人や企業が反社会的勢力かどうか問い合わせて確認するという方法です。反社チェックツールを使った記事検索やグーグルを使った風評検索では引っかからないが、それでも相手先に反社会的勢力の疑いがある場合に行う最終手段です。
ただし弁護士に依頼するコストがかかりますし、照会しても警察から守秘義務を理由に開示がされない場合もあるため、あまり実務で一般的に使われる方法ではありません。
この記事のまとめ
この記事で解説した内容をまとめました。
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- 反社会的勢力とは、暴力団など暴力・脅迫・恐喝・詐欺などで不正に利益を得ようとする個人や組織です。
- 反社会的勢力を排除する目的は、反社と取引することで間接的に利益供与することになってしまったり、反社が不当に得た利益を受け取ることになってしまうからです。条例違反の可能性や社会的な信用面からもデメリットがあります。
- 反社会的勢力を排除する方法として、①反社会的勢力排除宣言②反社会的勢力でないこと等に関する表明・確約書③契約書の反社会的勢力排除条項④反社チェックの4つがあります。
- 反社チェックとは、反社会的勢力と取引する前に、相手が反社かどうかを調べることです。
- 反社チェックは、日経テレコンなどで関連キーワードとともに個人や企業名を新聞など記事検索する方法と、グーグルで関連キーワードとともにネット上の風評検索する方法を組み合わせるのが一般的なやり方です。