※2021年9月22日更新
この記事では、上場企業の総務担当者が長年の経験・ノウハウをもとに【定款】の作り方を解説し、モデル規程のサンプル雛形フォーマットも紹介しています。
事業が拡大し従業員が増える、許認可事業を申請する、株式上場を目指すなど様々な理由から、社内ルールとして「規程」を整備する事があります。初めて「規程」を作る場合には、どんな内容を盛り込んだら良いのか、どんな形式で作成したら良いのか分からないと思います。
そこでこの記事では、上場企業の総務部門で長年規程やマニュアルを制定・改定してきた経験やノウハウを公開し、社内規程のひとつである【定款】をゼロから作成する方法を解説します。
なお、会社の規模・状況別に必要な規程集も別記事で紹介しています。あわせてご覧ください。
目次
規程【定款】とは・目的および必要性
【定款】とは「ていかん」と読み、会社を運営していく際の基本的な規則をまとめたもの、一言でいうと「会社の憲法」のようなものです。会社のみならず組織には必ず何がしかのルールが定められているものですが、会社の場合、経営していく際のルールがこの【定款】にあたります。
【定款】は、会社を設立する上で必ず作成しなければならず、会社の商号、目的、組織構成、活動や事業内容などを記載した上で、書面または電磁的記録(データを電子媒体に記録したもの)に記録する必要があります。
例えば株式会社を設立する場合は、発起人が【定款】を作成し署名または記名捺印をし、公証人の認証を受けなければその効力を生じない、会社法で定められています。前述のように【定款】は電磁的記録で作成が可能ですが、その場合、署名または記名捺印に代わる措置が必要となります(電子認証など)。
なお、会社は必要に応じてその定款を改定する場合がありますが、設立時に作成した【定款】を特に「原始定款」と呼びます。
規程【定款】の作り方
規程【定款】の作り方として、具体的な記載事項を解説します。前述のように、【定款】には会社の商号、目的、組織構成、活動や事業内容などを記載する必要がありますが、定款に記載する内容としては必要性別に、①絶対的記載事項、②相対的記載事項、③任意的記載事項の3つがあります。
絶対的記載事項
絶対的記載事項とは、会社法(第二十七条)で定められた定款に必ず記載しなければならない事項になります。必ず記載しなければならないので、万が一絶対的記載事項を記載しなかった場合や、仮に記載したとしても内容に問題がある場合、定款自体が無効になってしまいます。
【定款】の絶対的記載事項は、以下の5つです。
- 目的
- 商号
- 本店の所在地
- 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
- 発起人の氏名または名称および住所
それぞれについて、注意点やポイントを解説していきます。
目的
目的は、会社の事業目的(事業内容)になります。原則として、会社は【定款】に定めた目的の範囲内で事業を行うことができることになっています。では、目的に記載していない事業を行った時に、違反になったり罰則になったりするかと言えばそんな事はありません。
ただし、許認可事業において一般的には、許認可を受ける際に【定款】の目的にその事業が記載されている必要があります。後から【定款】の目的を追加したり変更したりするには、登録免許税3万円(プラス司法書士などへの費用)がかかるため、通常は会社設立時に将来考えられる事業内容について、特に許認可事業については幅広く盛り込んでおくのが普通です。
例えば、有料職業紹介事業(職業紹介)、労働者派遣事業(派遣事業)、飲食店の経営(飲食店)、宅地建物取引業(不動産の売買、賃貸、管理およびそれらの仲介)、古物営業法に基づく古物商(転売やせどり)が一般的です。
なお、だからといってあまり入れすぎると、官庁や銀行など金融機関から見て客観的に何をやっている会社なのかが分かりづらくなるため、ほどほどにしておく事が必要です。
また、「前各号に付帯または関連する一切の事業」などの文言を盛り込んでおくことで、幅広く目的(事業内容)を網羅することができます。
商号
商号は会社名です。日本文字、アルファベット、アラビア数字と、一部の記号を使うことができます。
本店の所在地
本店の所在地は文字通り、会社の本店(本社)を置く住所なのですが、1点だけ注意点があります。
それは、例えばマンションの1室で開業するような場合に、埼玉県●●市1-1-1▲▲マンション101と部屋番号までの住所を本店の所在地として【定款】に記載する方法と、もう一つ、埼玉県●●市と市区町村(最小行政区域)だけを記載する方法があるということです。
通常は後者の市区町村(最小行政区域)だけを記載する方法が選ばれます。なぜかというと、仮に同じ市区町村内で会社を移動(引っ越し)した場合に、前者の部屋番号までの住所を【定款】に記載していると、【定款】変更が必要になってしまい、変更費用(3万円+手数料)が発生するからです。
設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
こちらは文字通り、会社設立時の出資額または最低額となります。出資額は分かるとして、最低額とは何でしょうか?これは、会社設立時に、そもそも出資するかどうかや、出資するにしてもいくら出資するか決まっていない発起人がいて、全体の出資額が決まらないケースを想定しています。
発起人の氏名または名称および住所
こちらも特に説明は不要ですね。「名称」とあるのは、必ずしも発起人が個人でなく、会社など法人の場合もあるからです。
相対的記載事項
相対的記載事項とは、【定款】に記載しなかったとしても【定款】自体が無効になる訳ではありませんが、【定款】に記載しないと有効にならない事項の事です(会社法第二十八条、二十九条)。
変態設立事項
相対的記載事項のなかで、「変態設立事項」と呼ばれるものがいくつかあります。これは、発起人が故意に会社の財産を減少させたり喪失させたりすることのないように、会社設立前に発起人が行う会社財産に関係する行為について定款(原始定款)に記載することを指しており、以下の4つがあります。
現物出資
現物出資など金銭以外の財産を出資する者の氏名または名称、現物出資される財産およびその価額ならびにその者に割り当てる設立時発行株式の数
財産引受
会社成立後に譲り受けることを約した財産およびその価額ならびに譲渡人の氏名または名称
発起人の報酬・特別利益
会社成立により発起人が受ける報酬その他の特別の利益およびその発起人の氏名または名称
設立費用
会社が負担する設立に関する費用
その他の相対的記載事項
変態設立事項以外にも、以下のような相対的記載事項があります。
- 株式の譲渡制限に関する規定
- 株主総会の招集通知を出す期間の短縮
- 役員の任期の伸長
- 株券発行の定め
なお、【定款】の相対的記載事項については、通常はあまり意識する必要はありません。
任意的記載事項
【定款】は「会社の憲法」といった会社の基本的なルールですが、これまで解説してきた絶対的記載事項および相対的記載事項以外にも、会社法の規定に違反せず、また公序良俗に反しない限り、どんな事項でも原則記載することができます。それを任意的記載事項(会社法第二十九条)といいます。
【定款】に記載しなくても【定款】自体が無効になる訳ではないという点では相対的記載事項と同じですが、相対的記載事項が【定款】に記載しないと有効にならないのに対し、任意的記載事項は【定款】外で定めても有効になるという点で違いがあります。
任意的記載事項の例として、以下のようなものがあります。
- 定時株主総会の招集時期
- 基準日
- 事業年度
- 役員(取締役、監査役等)の数
- 種類株式
- 配当金
任意的記載事項も通常はあまり意識する必要はありませんが、【定款】の変更は原則として株主総会での承認が必要なため、あえて【定款】で定めることでその事項の拘束力を高める効果があります。
規程【定款】モデル規程のサンプル・雛形・フォーマット
これまで解説した注意事項・ポイントをもとにした、モデル規程のサンプル・雛形・フォーマットを紹介します。なお、1人でまず起業するような小規模のビジネスを想定しています。
株式会社●● 定款
第1章 総則
(商号)
第1条 会社は株式会社●●と称する。
(目的)
第2条 会社は次の事業を行うことを目的とする。
(1) ●●の製造および販売
(2) ●●の仕入および販売
(3) ●●の輸入および販売
(4) 前各号に付帯または関連する一切の事業
(本店所在地)
第3条 会社の本店は埼玉県●●市に置く。
(公告方法)
第4条 会社の公告方法は電子公告により行う。ただし、事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合は、日本経済新聞に掲載して行う。
第2章 株式
(発行可能株式総数)
第5条 会社の発行可能株式総数は1万株とする。
(株券不発行)
第6条 会社の発行する株式については株券を発行しない。
(株式譲渡制限)
第7条 会社の株式を譲渡により取得するには、株主総会の承認を受けなければならない。
(基準日)
第8条 会社は、毎事業年度末日の最終の株主名簿に記載または記録された議決権を有する株主をもって、その事業年度に関する定時株主総会において権利を行使することができる株主とする。
2 前項のほか、必要があるときは、あらかじめ公告して、一定の日の最終の株主名 簿に記載または記録されている株主または登録株式質権者をもって、その権利を行使すること ができる株主または登録株式質権者とすることができる。
第3章 株主総会
(招集)
第9条 会社の定時株主総会は、毎事業年度の末日の翌日から3か月以内にこれを招集し、臨時株主総会は必要がある場合にこれを招集する。
(招集権者)
第10条 株主総会は、法令に別段の定めがある場合を除き、取締役が招集する。
(議長)
第11条 株主総会の議長は、取締役がこれに当たる。
2 取締役に事故があるときは、当該株主総会で議長を選出する。
(決議方法)
第12条 株主総会の決議は、法令または定款に別段の定めがある場合を除き、出席した議決権を行使することができる株主の議決権の過半数をもって行う。
(議事録)
第13条 株主総会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成する。
第4章 取締役
(取締役の員数)
第14条 会社は、取締役1名以上を置く。
(代表取締役および社長)
第15条 会社に取締役が2名以上ある場合には、株主総会によって代表取締役1名以上を定め、そのうち1名を社長とする。
2 会社の取締役が1名の場合には、当該取締役を社長とする。
(取締役の選任)
第16条 取締役の選任決議は、株主総会において、議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。
2 取締役の選任決議は、累積投票によらないものとする。
(取締役の解任方法)
第17条 取締役の解任決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その議決権の3分の2以上の多数をもって行う。
(取締役の任期)
第18条 取締役の任期は、選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。
2 補欠又は増員により選任された取締役の任期は、その選任時の在任取締役の任期の満了すべき時までとする。
(報酬)
第19条 取締役が報酬、賞与その他の職務執行の対価として当会社から受ける財産上の利益は、株主総会の決議をもって定める。
第5章 計算
(事業年度)
第20条 会社の事業年度は、毎年4月1日から翌年3月末日までとし、事業年度末に決算を行う。
(剰余金の配当)
第21条 剰余金の配当は、毎事業年度末日現在の最終の株主名簿に記載又は記録された株主又は登録株式質権者に対して行う。
2 剰余金の配当がその支払開始の日から満3年を経過しても受領されないときは、会社は、その支払義務を免れるものとする。
第6章 附則
(設立に際して出資される財産の価額)
第22条 会社の設立に際して出資される財産の価額は金100万円とする。
(最初の事業年度)
第23条 会社の最初の事業年度は、当会社の成立の日から●●年3月31日までとする。
(発起人の氏名等)
第24条 発起人の氏名または名称および住所、割当を受ける設立時発行株式の数及び設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額は次のとおりである。
●●●●(発起人住所)
普通株式100株 100万円 ●●●●(発起人氏名)
(成立後の資本金の額)
第25条 会社成立後の資本金の額は、金100万円とする。
(定款に定めのない事項)
第26条 本定款に定めのない事項は、すべて会社法その他の法令に従う。
以上、株式会社●●設立のためこの定款を作成し,発起人が次に記名押印する。
令和●●年●●月●●日
発起人 ●●●●(発起人氏名)
なお、会社の規模・状況別に必要な規程集も別記事で紹介しています。あわせてご覧ください。